1.痛みが回復していくということ
痛みの原因には、様々なものが存在します。
慢性の痛みとなると、組織の癒着や炎症、短縮した筋肉の伸張痛、あるいは引っ張られた固まってしまった筋肉や、姿勢保持などで負担となっている筋肉の虚血(血液供給が不足している状態)、硬くなった筋に神経が押さえつけられた結果生じる神経性のものなどが多いです。
治療の結果、これらの原因が改善され、痛みが軽減されていきます。
ですが、1回で全てが解決する事はありません。その痛みが慢性的であるほど、原因は幾つにも重なっておりひとつずつ原因を除去していく必要があります。
2.痛みの回復曲線
気を付けていただきたいのは、一時的に痛みが楽になったからといって完治したというわけではないという事です。
下の図は「痛みの回復曲線」というものです。大切なのは施術によって回復曲線が上がりますが、時間の経過とともに下降していきます。完全に落ちきる前に次の施術を受けていただく事が重要です。そうする事で相対的に身体の状態は改善していき、回数を重ねるごとに筋の状態は安定していき、痛みの戻りが少ない状態になっていきます。(青線の曲線)
しかし、痛みが楽になったからといって、次の施術まで間隔を空けて、痛みが強くなってきてからにしてしまうと、いつまでたっても根本的な解決には近づいていきません。(赤線の曲線)
3.身体の長年のゆがみを、脳は「正常」と認知している
人間の身体は不思議なもので、長い期間その状態にあったものを正常と認知するという事があります。例えば、体温はある程度一定ですよね。それが崩れると、脳は異常を感知して、平常の体温に戻そうとします。
これらの働きをホメオスタシスと言います。
これは筋肉にも同様の事が起こります。例えば長年、腰痛を抱えた方の筋肉は硬い事が多いですが、治療で一時的に筋肉を柔らかくしても、脳はこの状態を異常と感じてしまいます。そうなると、再び筋肉を硬くしようと働きかけます。
痛みの出ていた長年の状態が正常だと認知してしまうのです。これが、先ほどお伝えした痛みの回復曲線でみられる下降線となります。
ですので、完全に戻ってしまう前に何度か治療を重ねていき、脳に「本来の正常」を認識させていく事が重要です。回復曲線のメンテナンス期間までくると多くの方は、本来の正常状態に近づく事になりますので、少しの硬さなどの異常は「自己回復力」によって日常生活を過ごしているうちに改善していきます。
子供の頃は、少しぐらい調子が悪くても一晩寝ればほとんど治った経験は誰しもあったかと思います。自己回復力がある時はそれで良かったのですが、年齢を重ね、身体に無理をしていくにつれて、自己回復力はどんどん低下してしまいます。
大切なのは、この「自己回復力」を再び取り戻していく事です。
4.生活習慣の見直し
痛みの回復曲線において、とても大切なのは生活習慣を一度、見直してみるという事です。
なぜならば、普段の生活場面では、施術以外の時間の日常の時間が圧倒的に多いからです。ここでの過ごし方次第では、治療効果も半減してしまう可能性があります。
痛みを引き起こす生活習慣としては以下のものが考えられます。
① 筋肉的な負担
これは、長時間の同じ姿勢、部分的に負担のかかる不良姿勢などがあげられます。
まず筋肉は、使いすぎても動かなすぎても硬直する性質があります。
デスクワークなどでの長時間の同じ姿勢や、猫背や反り腰などの不良姿勢はその典型です。長時間の同じ姿勢では、その姿勢を保つために特定の筋が硬くなりやすいです。また猫背では上半身の重みが腰部に負担をかけ、また反り腰では腰部の筋肉が押し込められて硬くなってしまいます。
② 内臓的な負担
食べ過ぎや質の悪い食事などがこれらにあげられます。
少し難しい内容ですが、「内臓体性反射」といって、内臓の不調が筋肉・皮膚・血管などに不調や痛みをもたらす事があります。
また内臓を包んでいる内膜が筋肉を包む筋膜と癒着する事があり、影響を受けやすい関係でもあります。更に腎臓や肝臓の調子が悪い事で、疲労物質が体内に蓄積しやすいともいわれています。
③ 精神的な負担
過度のストレス、スマホやパソコンの長時間の使用、睡眠不足などがあげられます。
ストレスや長時間の電子機器の利用、睡眠不足は交感神経の働きを活性化させます。またストレスは血行不良や内臓機能の低下、呼吸も浅くなり、筋肉を硬直させます。さらにはストレスで痛みが増幅するという研究結果も発表されています。
このように、普段からに生活を見直す事も慢性の痛みを改善させる大事な要因となります。これはあなたにしか出来ないことでもあります。ですので、この機会にしっかりと慢性の痛みを自分でも治していくと決意していただくことが大事です。
この決意が回復曲線の上昇を早めるポイントにもなります。